アポロ14号が持ち帰った「月の石」は実は「地球の石」だった?
今から48年前の1971年2月5日、NASAが打ち上げたアポロ14号(乗員は船長のアラン・シェパード、司令船操縦士のスチュアート・ルーサ、月着陸船操縦士のエドガー・ミッチェルの3名)の月着陸船「アンタレス」が月のフラ・マウロ丘陵に着陸した。アポロ11号から数えて史上3回目の月面着陸だった。このアポロ14号が持ち帰った月の石のサンプルが、実は地球由来のもだとする研究論文が発表されたようだ。
それによると、月の石のサンプルは、太古の昔、彗星か小惑星が地球に衝突したとき、そのときの衝撃で岩石が宇宙空間に放出され、偶然その先にあった月に激突したものだという。というのも、サンプルには地球ではありふれた鉱物である石英、長石、ジルコンが含まれているが、これらの鉱物は月の地質における含有量はあまり多くないからだ。

アポロ14号が持ち帰った月の石のサンプル [Credit: NASA]
問題の石はいつ頃、どこで形成され、どのようにして月まで飛んできたのか?
アポロ14号が持ち帰った問題の石は”14321”と呼ばれているサンプルで、大きさはバスケットボールほどで、重さは9kg近い角礫岩(かくれきがん)と呼ばれる古い石のかけらがたくさん組み合わさったものだ。この石は、大部分は砕屑岩(さいせつがん)と呼ばれる粒子が堆積してできた岩石でできていてい暗い色をしているが、一部は際立って明るい色をしている。そして、この明るい部分は地球にある花崗岩と似た構成だという。
そこで、研究者たちはこの石がどこからやってきたのか調べるため、この石に含まれるジルコンに注目した。ジルコンはケイ酸塩鉱物の一種(化学組成はZrSiO4、結晶系は正方晶系の鉱物)で、火成岩の中に微小な結晶として広く産出するものだ。モース硬度は7.5で非常に固く(ちなみに、ダイヤモンドはモース硬度10だ)、頑丈な鉱物だ。ジルコンはオーストラリアで44億年前に形成されたと推定される地球最古の鉱物として見つかっていて、地質学的に最も古い時代の遺物を探すには、まずはジルコンから調べるのが良いとされているようだ(ただし、オーストラリアで見つかった鉱物の年代推定には疑問も呈されているようだが)。
そして、研究者たちがジルコンと周囲にある石英を分析した結果、これが月で形成されたのならおかしな状況であることがわかってきた。ジルコンは月より低温で、酸素に富んだマグマの中で形成されたはずだという。さらに月で形成されたのであれば、地下160km以下の深さでないと存在しないような圧力下で形成されたはずだという(月の半径は約1700kmなので、この深さは半径の1/10程の深さだ)。それに対して地質学者たちは14321を形成した衝突の深さはせいぜい70km程度だと推定している。だとすれば、こんなに地下深くにあるものが、どうやって地表まで出てきたのかという疑問が生じる。
この疑問に対して研究者たちは、この石が地球で形成されたと考えれば筋が通ることに気がついた。地球の地下20km程のところにあるマグマであれば、温度、圧力、酸素含有量ともにこの石が形成された環境とそっくりで、形成された年代は、この石は地球がまだ若かった40億年から41億年前に結晶化したものだという。
そして、約40億年前に大きな彗星または小惑星が地球に衝突し、その衝撃でこの石は猛烈な勢いで地球から放り出された。その当時、地球から月までの距離は現在の1/3と、今よりずっと地球に近いところにあり、地球から放り出された石は偶然にも月に衝突した(見かけの大きさが3倍、面積は9倍になるため、地球から放り出された石が月という「的」に当たる確率が高くなる)。石が月に衝突した後も、石はいくつかの衝突イベントに見舞われ、そのうちの一つは39億年前に石を部分的に溶かして地下に埋もさせて「新しい石」を作り出した。
その後、2600万年前に小惑星が月に衝突して直径340mほどの小さな円錐形のクレーターを作った。これによって石が月の表面に放り出されたのだという。
今回の発見は、月が太陽系の歴史を保存していることを裏付けるものだという(これは今後物議を醸すことになるかもしれないと指摘されているようだが)。というのも、月は非常に古い天体で(月の年齢は地球とほぼ同じ約46億年だ)、空気がなく、地質学的にも不活発だからだ。そのため、月の表面には太陽系初期の隕石の衝突の歴史が保存されている-つまり、太陽系初期からのタイムカプセルだ。そして、月面にある「地球の石」は、地球上の物質では知り得ない時代について知る手がかりとなるのだ。
アポロが月から持ち帰った他の石の中には、太古の地球の石が含まれている可能性がある。そして、他の研究者も今回の発見に刺激を受けて、それを探そうとするだろう。そうなると、研究がさらに進み、今回の発見がさらに信ぴょう性の高いものになるだろう。
ということなんだが、今後の研究の進展を見守ることにしよう。
関連記事はこちら。
朝日新聞Digitalの記事:https://www.asahi.com/articles/ASM102CDGM10UHBI00H.html
ナショナルジオグラフィックの記事:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/012900064/
CNNの記事:https://edition.cnn.com/2019/01/24/world/earth-oldest-rock-moon/index.html
Earth and Planetary Science Lettersの論文(概要):https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X19300202
米月惑星研究所の記事:https://www.lpi.usra.edu/features/012419/oldest-rock/
それによると、月の石のサンプルは、太古の昔、彗星か小惑星が地球に衝突したとき、そのときの衝撃で岩石が宇宙空間に放出され、偶然その先にあった月に激突したものだという。というのも、サンプルには地球ではありふれた鉱物である石英、長石、ジルコンが含まれているが、これらの鉱物は月の地質における含有量はあまり多くないからだ。

アポロ14号が持ち帰った月の石のサンプル [Credit: NASA]
問題の石はいつ頃、どこで形成され、どのようにして月まで飛んできたのか?
アポロ14号が持ち帰った問題の石は”14321”と呼ばれているサンプルで、大きさはバスケットボールほどで、重さは9kg近い角礫岩(かくれきがん)と呼ばれる古い石のかけらがたくさん組み合わさったものだ。この石は、大部分は砕屑岩(さいせつがん)と呼ばれる粒子が堆積してできた岩石でできていてい暗い色をしているが、一部は際立って明るい色をしている。そして、この明るい部分は地球にある花崗岩と似た構成だという。
そこで、研究者たちはこの石がどこからやってきたのか調べるため、この石に含まれるジルコンに注目した。ジルコンはケイ酸塩鉱物の一種(化学組成はZrSiO4、結晶系は正方晶系の鉱物)で、火成岩の中に微小な結晶として広く産出するものだ。モース硬度は7.5で非常に固く(ちなみに、ダイヤモンドはモース硬度10だ)、頑丈な鉱物だ。ジルコンはオーストラリアで44億年前に形成されたと推定される地球最古の鉱物として見つかっていて、地質学的に最も古い時代の遺物を探すには、まずはジルコンから調べるのが良いとされているようだ(ただし、オーストラリアで見つかった鉱物の年代推定には疑問も呈されているようだが)。
そして、研究者たちがジルコンと周囲にある石英を分析した結果、これが月で形成されたのならおかしな状況であることがわかってきた。ジルコンは月より低温で、酸素に富んだマグマの中で形成されたはずだという。さらに月で形成されたのであれば、地下160km以下の深さでないと存在しないような圧力下で形成されたはずだという(月の半径は約1700kmなので、この深さは半径の1/10程の深さだ)。それに対して地質学者たちは14321を形成した衝突の深さはせいぜい70km程度だと推定している。だとすれば、こんなに地下深くにあるものが、どうやって地表まで出てきたのかという疑問が生じる。
この疑問に対して研究者たちは、この石が地球で形成されたと考えれば筋が通ることに気がついた。地球の地下20km程のところにあるマグマであれば、温度、圧力、酸素含有量ともにこの石が形成された環境とそっくりで、形成された年代は、この石は地球がまだ若かった40億年から41億年前に結晶化したものだという。
そして、約40億年前に大きな彗星または小惑星が地球に衝突し、その衝撃でこの石は猛烈な勢いで地球から放り出された。その当時、地球から月までの距離は現在の1/3と、今よりずっと地球に近いところにあり、地球から放り出された石は偶然にも月に衝突した(見かけの大きさが3倍、面積は9倍になるため、地球から放り出された石が月という「的」に当たる確率が高くなる)。石が月に衝突した後も、石はいくつかの衝突イベントに見舞われ、そのうちの一つは39億年前に石を部分的に溶かして地下に埋もさせて「新しい石」を作り出した。
その後、2600万年前に小惑星が月に衝突して直径340mほどの小さな円錐形のクレーターを作った。これによって石が月の表面に放り出されたのだという。
今回の発見は、月が太陽系の歴史を保存していることを裏付けるものだという(これは今後物議を醸すことになるかもしれないと指摘されているようだが)。というのも、月は非常に古い天体で(月の年齢は地球とほぼ同じ約46億年だ)、空気がなく、地質学的にも不活発だからだ。そのため、月の表面には太陽系初期の隕石の衝突の歴史が保存されている-つまり、太陽系初期からのタイムカプセルだ。そして、月面にある「地球の石」は、地球上の物質では知り得ない時代について知る手がかりとなるのだ。
アポロが月から持ち帰った他の石の中には、太古の地球の石が含まれている可能性がある。そして、他の研究者も今回の発見に刺激を受けて、それを探そうとするだろう。そうなると、研究がさらに進み、今回の発見がさらに信ぴょう性の高いものになるだろう。
ということなんだが、今後の研究の進展を見守ることにしよう。
関連記事はこちら。
朝日新聞Digitalの記事:https://www.asahi.com/articles/ASM102CDGM10UHBI00H.html
ナショナルジオグラフィックの記事:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/012900064/
CNNの記事:https://edition.cnn.com/2019/01/24/world/earth-oldest-rock-moon/index.html
Earth and Planetary Science Lettersの論文(概要):https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X19300202
米月惑星研究所の記事:https://www.lpi.usra.edu/features/012419/oldest-rock/
この記事へのコメント
地球のどのあたりだとか。
月面着陸の記事を書きました。
よろしければ、遊びに来てください。